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2017.05.12 UP

髭 : 須藤寿 (Vocal & Guitar) インタビュー

独特の空気感のアルバムになってるなあ、肩の力がとにかく抜けてるなあって

――『ねむらない』と同じく全10曲のアルバムなんですけど、『すげーすげー』はまったく空気感の違うアルバムで。まず何より、短い!
須藤: 短かったですねえ(笑)。全然意識してなかったんですけど。

――『ねむらない』が42分くらいで、『すげーすげー』はトータル、28分35秒。
須藤: (笑)。だから、その時その時のムードなんでしょうね。今回はアレンジメントも、パン、パン、パン!っていう感じで……『ねむらない』はフィリポ(川崎”フィリポ”裕利)が抜けたあたりの時期の制作だったんで、まあリズム・シーケンスから作っていくっていうことで、家で作っている中で、自然と曲が長くなっていくっていうか。歌い始めるまでに、いつの間にか30秒経ってたり(笑)。そういう違いが出てるんでしょうね。で、『ねむらない』で「みそぎ」を落とした後で、もう一回バンドとして作りたいと思ってて――っていう話は、前の智樹さんのインタビューでも言ってたんじゃないかと思うんですけど。

――言ってましたね。『ねむらない』は、須藤くんが斉藤(祐樹/Guitar)くんの家に行って、曲の基本形を組み立ててからメンバーに渡していく、っていう作り方で生まれたアルバムだったんですけど。その後のインタビューでは「みんなでスタジオに入りたい」「無駄なことをやりたい」って話していて。
須藤: うんうん。そのモードで制作したんで。その「斉藤の家に行ってデモを作る」っていうのは、わりとその後も続いていた作業ではあったんですけど。デモを作るうちに……楽しくなってきちゃうんですよね。だから、シーケンスとか作り始めた時も「おお、いかんいかん」って途中でやめてましたね。去年シングル2連続で出した“DEVIL’S ODD EYE”と“スターマイン”は『ねむらない』との中間にあるんで、この2曲だけは異質ですけど。他のものはもう、リズム・シーケンスはどんどん排除していこうって。今の自分たちの気分としては、ギターサウンドっていうか、バンドサウンドとして成立するサウンドメイキングでいこう、みたいなことは思ってましたね。

――『ねむらない』の平熱なサイケデリックな感じも髭だし、今回のアッパーな感覚も間違いなく髭だし。その振り幅のどっちにも通底する髭の本質って何だろう?って、これを聴いて改めて思うんですよね。
須藤: 確かに。今回、アルバムを作ってる中で、取り立てて「このアルバムで何かをしたい」っていう目標もなくて。一番日記っぽいアルバムというか……『ねむらない』は意識的に「こういうアルバムを作りたい」「こういうアルバムを作って見せつけるぞ」っていう部分がどこかにあったと思うんですけど、今回はそういうものがまったくないんですよね。気を張ってないというか。そういうアルバムかなあって。だから……すごくフラットな感じがしますよね。変なトゲもないし。

――アッパーな曲って言っても、たとえば“ロックンロールと五人の囚人”とか“テキーラ!テキーラ!”とかのアッパー感とは違うんですよね。何と言うか、解脱したままアガっていくような感じ?
須藤: そうそうそう。で、キーも低いんですよね(笑)。キーは『ねむらない』のまんまなんですよね。“ヘルシンキ”とか書いてても、すかしてる感じというか……「かわしてる感じ」って言うと変ですけど、それくらいの温度感が自分の中ではちょうどいいっていう。言ってることは変わらないんですけど、たとえば“CLASH! LAOCHU!”とか“ユーは13? 14?”とか書いてても、昔とは違うんですよね。それが今の、30代の終わりから40代を迎える自分の世界観なのかもしれないですけど。

――でも、“CLASH! LAOCHU!”から“ユーは13? 14?”への流れとかは、若さとか衝動でアゲていくのとは違う、変な凄みがありますけどね。
須藤: よくわかんないですよね(笑)。でもなんか、そういうところなんでしょうね、髭って。そういうのは昔の“ギルティーは罪な奴”とかとあんまり変わってないのかなあとか思いながら……独特の空気感のアルバムになってるなあって。どこに向かってるかっていうと――肩の力がとにかく抜けてるなあっていう感じだけはわかるんですけど(笑)。結構、始めは自分も「髭のバンドサウンドをもう一回作るんだ」っていう感じで、今回のアルバムに立ち向かってみたんですけど、作っていくうちに「いつギアが入るのかな?」みたいな(笑)。でも、曲数もできたし、できちゃったなあって。あとはもう、聴いてくれるみんながどう受け取ってくれるか、でいいと思うんですよね。


ミックスだけでテイク25くらいまでやりましたからね。「痛くない音」を探りながら

――『ねむらない』で一回バンドサウンドを解体した感じはあったと思うんですよね。で、その一度バラした髭っていう車のパーツを今回組み立ててみたら、「あれ? タイヤ一個しかないけど、快適に走ってるからまあいっか」くらいの不思議なバランス感ですよね。フォーマットを気にしていないというか。
須藤: そうですね(笑)。すごい不思議なのは、プロデューサーも『ねむらない』と同じ吉田仁さん(SALON MUSIC)だし、チームは何も変わってないんだけど、雰囲気は全然違うものになってて。仁さんも今回は苦心してくれて、いろいろチャレンジしてくださって。それでも結局、僕がやっぱりいろいろ言うは言うから(笑)。すごくお付き合いいただいて……テイク25くらいまでやりましたからね。「どこまでやるんだろう?」って。

――すごいですね(笑)。
須藤: あ、そのテイク25っていうのは、トラックの録音じゃなくて、ミックスのバージョンっていう意味で。10月くらいに始まったミックスが、終わったのは1月でしたから(笑)。痛くない音を探りながら、それでいながら髭的なパンチ力のあるもの、少なくとも自分が聴いててスカッとするサウンドっていうのは、ものすごくしつこく探ってましたね。どっちかって言うと、そこに目が行ってるのかな?

――レコーディングはスムーズだったんですか?
須藤: 録りはわりとスムーズでした。時間のかかった曲はない、かな?

――でもミックスで3ヶ月かかったっていう。
須藤: もう、ずっとやってましたよ。って言っても、僕らはツアーに出てたので、その間に仁さんがミックスしたものを送ってくれて、「いや、違います」って(笑)。仁さんっていう方は、僕の言ってることをすごく理解してくださっていて、「須藤くんのやりたいことはわかる。それとこのアレンジが合ってないよ」って、僕のミスとかも指摘してもらって。「じゃあ、そのギターは思いっきり削除しちゃいましょう」とか、そういうことはすごくやってましたね。そういう意味では、初期の僕たちっていうか、それこそ『Thank you, Beatles.』〜『Chaos in Apple』ぐらいの頃から、『ねむらない』の頃に探ってた「痛くない音楽」をミックスしてはいるんですよね。ラウドなものが鳴りながら痛くない、っていうところはずっと探ってましたね。「とにかく心地好いものにしてください」「で、抜けのいいものにしてください」っていう。

――それも面白いですよね。音の手触りとか空気感を重視するために、ギターをミュートしちゃうって。
須藤: そうそうそう。そういうことをすごくやってましたね。「え、須藤くん、そこ軸だったんじゃないの?」って(笑)。それを軸にドラムとかも合わせてるのに……トリッキーなレコーディングをする時は、普通はドラムをちゃんといいトラックを録って、そこに合わせていくと思うんですけど。なんかいろいろ実験していくうちに、自分のギターを軸にドラムを当てはめていくとか、いろいろ順番がぐちゃぐちゃしてくる時もあって。そういう中で、「軸であるトラックをミュートしちゃうんだ? それはやめたほうがいいんじゃない?」とか、そういうやりとりも仁さんとはずっとやってましたね。

――楽曲そのものの髭イズムももちろんあるけど、演奏とサウンドから伝わる磁場というか、「ここの音が1mmでも配置が変わると印象が変わっちゃうんだよな」っていう部分に、すごくエネルギーが注がれてるっていうことですね。
須藤: そうですね。スカッとしたアルバムは作りたかったんですよね。主張なき主張みたいなものは、髭の根底にあるものだと思うから。何言ってるかわかんないけど、何か読み取れるとか、あんまりわざとらしい言葉を使わないとか、そういうことはいつも意識してるような気がするんですよね。スカッとして、最後に何にも肌触りとして残らない、そういうアルバムにはしたかったですね。


髭 / Hige

綺麗な音にはいくらでもできるから、「イビツな感じ」を誠実に表現したかった

――その、「無意味でスカッとしたもの」にするための目配りがものすごく効いてる、っていうアルバムですよね。その目配りの仕方はやっぱり髭だなあと思うし。無意味だけど、デタラメじゃないっていう。
須藤: そういうほうが、聴いててちょうど具合がいいんだよな。その中からわかったような気もするし、わかんないような気もする、っていうところが。あんまり盲目的にならないようにはするんですけどね、世界観とか。そういうところなんでしょうね、髭っていうのは。あんまりどぎついものは、好きじゃないんだよなあ……自分がどぎついっていうことを知ってるからなのかもしれないですけどね(笑)。あとはこう、周りを見渡してみた時の、自分たちの立ち位置とかを、自分たちなりに意識して、自分たちを掴みに行ってるアルバムだなとは思うんですよ。

――なるほどね。
須藤: 今回はわりと「髭、こっちに行こうぜ」っていうのはあったんですけど、自分たちでスタジオで集まって模索したアルバムではありますよね。ここ3〜4年くらい多用してたリズム・シーケンスは全部外してしまおうとか、いろいろやってみて……まあ、もちろんまだまだわからないことはたくさんあるんですけど、「自分たちがリズム・シーケンス使うとこんな感じ」っていうことはわかったので。どのバンドでも、そういうところを行ったり来たりして、「この曲は完全に同期で」「この曲はバンドで」とかいろいろやったりしてると思うんですけど。そういう意味では僕たちの場合は、“DEVIL’S〜”と“スターマイン”以外は、たとえば謙介(佐藤謙介/サポートDrums)しかクリック聴いてなかったり、“ユーは13? 14?”とか“S.O.D.A.”とかはクリックもかまさないで完全に一発録りだったんで。そういう勢いは録ろう、ってやった結果、短くなったんですよね(笑)。走ったっていう。

――(笑)。走った結果だったんですね。
須藤: そういう、走ったりモタったりすること以外に、バンドの価値が見出せなくなってきてるというか……綺麗にはいくらでもできるから、いかに自分たちを出すか?っていう時に、やっぱり人間の集まりだから、イビツなわけですよ。そのイビツな感じを誠実に表現するには?ってなった時には、まあ「昔みたいに一発録りやってみようか」とかいって。謙介と宮川くんがしっかりクリック聴きながらやってた“もっとすげーすげー”とかは、「こういう曲だから、後で歌も乗せやすいように、リズムトラックはしっかりやっとこうよ」っていう中で――斉藤がクリック聴いてたかはわかんないですけど、僕は聴かなかったですね。ふたりに合わせていくっていう。で、やり直しもいっぱいさせられましたけど(笑)。やっぱり、「髭の価値って何か?」って考えた時に――ズレというか、もう一回イビツなところに目を向けるしかなかったんですよね。もう、「ガッチリ合わせる」のは、適当に弾いても、後でプロデューサーに任せれば、ガッチリなってるものなんですよ、今の世の中(笑)。それを髭がやってもしょうがないよねって。

――音だけなら、ヘヴィにもハイパーにも、いくらでも武装しようがありますからね。
須藤: そういうバンドではないっていうことはもう、長いキャリアの中でわかってきたし。でも面白かったのは、「これからどういうバンドになっていくか」っていうことを考えながら、すげえ力の抜けたアルバムになっちゃったっていう(笑)。新たなフェーズに向かっていくわけだから、それが新たなモチベーションになって、またバンドとして構築していこう、っていうことを目指していったアルバムが、意外とすごく力が抜けてるっていう。『すげーすげー』っていうタイトルもそうなんだけど、非常に「らしい」なあと思いますね。


「次もこの方向性でいいんだ」って今は思ってる。「このアルバムは間違えてないな」って

――でも、40代のバンドってたくさんいますけど、これだけ力が抜けて解脱した感覚あるのに、ここまでレイドバックしてないバンドって、そうそういないと思いますよ。
須藤: なんか、反省してない感じがするんですよね(笑)。もうちょっと今までのことを反省して書けることがあるんじゃないか?っていうくらい、今回は責任感ないなあっていう……でも、それが僕たちだったんだろうなあって。そこにこそアイデンティティがあるんだとすれば、それを楽しんでもらえればな、と思うんですよね。ライブも今はすごくノってるし、妙な力が抜けたっていうことが、もしかしたらその要因としてあるのかもしれないですね。

――須藤くんの抱く「髭的なファンタジア」に迫るために、6人編成とか、トリプルドラムとか、これまでもいろんなフォーメーションをとってきたバンドなわけですけども。今は謙介くんを加えた5人のカラッとした感覚で――これが最終的な答えではないかもしれないけど、そこに限りなく近いことがやれてる感じはありますね。
須藤: そうですね……全然関係ないですけど、この間久しぶりにフィリポと電話でしゃべったら、元気にしてて。

――へえー。
須藤: すっごい前のことのようにも感じるし、「彼と一緒にやってたんだなあ」とか思いながら、まったく音楽の話もしなかったし(笑)。不思議ですよねえ……だから、今はほんと、この5人のカラーが出てるんじゃないですかね。謙介はすごく僕のニーズに応えてくれようとするドラマーだから。「自分はこれしかできません」じゃなくて、「それもこなしてみたい」っていうタイプだから。幅が広くて、一緒にやってて面白いですけどね。次のスタジオになると、こっちのニーズはクリアしてきてくれる、クリアできなくても努力の跡は見えるような人だから。

――まさに「打てば響く」感じのドラマーだと、やってて楽しいですよね。
須藤: うん。っていうか、彼だけですね、このバンドで「打てば響く」人は。他の人たちはマジで動かないから(笑)。「響いてんのかなあ?」っていうのが、マジでわかんないんですよね。奇しくも「打てば響く」っていうのがサポートメンバーだっていうのは不思議ですよね。宮川くんとかは、内に秘める熱いものを感じたりするんですけど、暗闇で仄暗く光る青い炎なんで。斉藤くんとコテ(佐藤”コテイスイ”康一/Percussion & Drums)に至っては、何考えてるのかさっぱりわかんないし(笑)。マジで謎ですよ。

――(笑)。
須藤: でも彼らも、「髭しかない」っていうわけじゃないと思うんですけど、「ここしかない」人たちなんだろうなっていう気がするんですよね。「音楽でしか食えない」っていう意味じゃなくて、「こんな生き方しかできない人たちなんだろうな」っていうのは、僕はすごくシンパシーを感じてて。みんな違うタイプの人間だし、方向性も全然違うんだろうけど、だからこそ髭っていうひとつのカテゴライズで一緒にやれてんのかなあって。そういう中で謙介はある意味、異質なタイプの人間のような気がして。そういうやつが新しくバンドに入ってきたことで、俺の中ではすごく活性化されてるんですけどね。

――最後、“あうん”“U4”の流れで、またガラッと雰囲気が変わりますよね。
須藤: うん。“あうん”“U4”は、このアルバムの中でも最後にできた曲で。“あうん”は最終レコーディングの2週間ぐらい前、結構ギリギリにできて。さらにギリギリだったのが“U4”だったんですよ。“あうん”は個人的にもすごく気に入ってて。この2曲はレコーディングの最後だったからかわかんないですけど――歌詞からも読み取れると思うんですけど、結構センチメンタルな感じが炸裂してて、でもサウンドは「『すげーすげー』の感じでまとめてください」って仁さんにお願いして。アルバムのコンセプトとして、スカッと終わりたかったんで。“U4”も、時期が違えばすごく長い曲になり得たと思うんですけど、今のモードであんまり暑苦しくしたくないっていうのもあったのかもしれないですね。

――もしかしたら、この2曲から別のモードに変わっていくのかもしれないし、まったく別の方向に行くかもしれないし――っていうのが、髭に関しては想像つかないんですよね。
須藤: でも、「次もこの方向性でいいんだ」って今は思ってるんですよね。『ねむらない』の時は「次は違うのを作りたい」って言ってたんですけど、今回は「このアルバムは間違えてないな」って。作曲どうのこうののレベルは置いといて、今の髭の感触として間違えてないなっていうのがあって。このテイストが伸びていく、っていう気はしてるんですけどね。もう、あんまりあっちゃこっちゃ考えも行かなくなってきてるというか……まあ、それも今の感想なんですけどね。次にアルバムができてくるまでわかんないんですけど。今はそんな感じですね。


2017.04.28 東京 目黒にて インタビュー : 高橋智樹


髭 NEW ALBUM『すげーすげー』2017.05.24 Release!
髭 NEW ALBUM『すげーすげー』
[収録曲]
01. もっとすげーすげー
02. ヘルシンキ
03. S.O.D.A.
04. TOMATO
05. スターマイン
06. CLASH! LAOCHU!
07. ユーは13?14?
08. DEVIL’S ODD EYE
09. あうん
10. U4
XQLX-1005 / 2,700+税
レーベル : Creamy Records
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LIVE INFORMATION

『ぷれ・すげーツアー』
■2017.05.23(火) @東京 下北沢 SHELTER

『すげーツアー』
■2017.05.27(土) @京都 磔磔
■2017.05.28(日) @兵庫 神戸VARIT.
■2017.06.04(日) @北海道 札幌BESSIE HALL
■2017.06.18(日) @宮城 仙台HooK
■2017.06.24(土) @福岡 CB
■2017.07.01(土) @大阪 梅田CLUB QUATTRO
■2017.07.02(日) @愛知 名古屋CLUB QUATTRO
■2017.07.08(土) @東京 恵比寿LIQUIDROOM


髭 / Hige

髭 Profile


須藤寿(Vo,G)、斉藤祐樹(G)、宮川トモユキ(B)、佐藤“コテイスイ”康一(Dr,Per)、の4人によるロックバンド。
2003年ミニアルバム『LOVE LOVE LOVE』でデビュー。
2004年にFUJI ROCK FESTIVALに初出演を果たし、2005年『Thank you,Beatles!』でメジャー・シーンに躍り出た。
以来、サイケデリックかつロマンチックな髭ワールドで、シーンを魅了し続けている。

◆ 髭 Official Site ⇒ http://www.higerock.com/
◆ 髭 Official Twitter ⇒ https://twitter.com/hige_official
◆ 髭 Official Facebook ⇒ https://www.facebook.com/higerock

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